その11

Category童話「ミシオン王子とハトになったヴォロンテーヌ」
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 しかしそのとき、馬のいななきが響き渡るのを聞き、思わずそちらを振り返って見ると、いなくなったと思っていた王子の愛馬が、森の入り口に立ってこっちを見ていました。ミシオン王子は驚くとともに、喜びは続くものだと感激しながら叫びました。
「あれはわたしの馬だ! なんと、生きていたのか!」

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 王子はリーデルと連れ立って、愛馬のそばに走り寄ろうとしましたが、馬は王子たちが近づくごとに、長い尾を揺らしながら身をひるがえし、王子を誘うように森の中へと入って行ってしまいました。
 ミシオン王子はリーデルと共に馬を追いかけて森のずいぶん深いところまで来ていましたが、ようやく馬をつかまえて振り返ると、つい後ろを走っていたはずのリーデルの姿がありませんでした。木々の生い茂る森を走るうちにはぐれてしまったのだなと思った王子は、とにかく馬を連れて村に戻ろうとしました。
 そのとき、背後からたくさんの馬の足音が王子に向かって近づいてくるのが聞こえ、
「殿下! そこにいらっしゃるのはミシオン殿下ではございませんか?!」
 と叫ぶ声が聞こえ、王宮の衛兵たちの一団が姿を現しました。王子が驚いていると、初老の衛士長の男が馬から降りて駆け寄ってきました。この男は王子が幼い頃から、時折剣の扱い方などを教えてくれていた男で、王子のことを可愛がってくれていた男でしたので、王子もその姿を見ると、懐かしい感情があふれて来るのを感じましたが、どこか急に夢から覚めたときのような、妙に心もとのない、現実感を伴わない感覚もして、戸惑っていました。
「よかった、やっとお見つけいたしましたぞ! 消息を絶たれてこの一年、どれほど陛下と王妃様がご心配なさっていたか……。この森の崖の下で、お連れになられていた方々の亡骸を見つけたときには肝を冷やしましたが、殿下のご遺体は見当たりませんでしたから、きっとご無事に違いないと信じ、ずっと捜索を続けてまいりましたが、やはりご無事だった! しかし、なんとおいたわしいお姿になられて……。もうご安心ください。陛下や王妃様も、さぞやお喜びになることでしょう」
 衛士長は王子の戸惑いには目もくれず、涙の滲んだ瞳で興奮したようにまくしたてました。
「その、わたしは……」
 ミシオン王子が口を開きかけましたが、衛士長はすっかり興奮しきって、しきりに王子の顔を覗き込むように見ながら、
「やはり、お見つけしたのは殿下の愛馬でしたか。一年前、殿下のお馬が一頭きりで城に戻って来たときには、それはもう王宮中がひっくり返るような大騒ぎになったものですが、忠義にも我々と一緒にずっと殿下を捜し続けておりました。どうぞ戻られたあかつきには、お馬にも褒賞をお与え頂けるよう、殿下からも陛下にご進言ください」
「そうか、それはまことに忠義なことだが、しかしとにかくわたしは……」
 ミシオン王子が皆まで言わぬうちに、馬から降りた衛兵たちが王子を取り囲み、王子が必死にともかく一度村に戻りたいと訴えるのにも耳を貸さず、無理やり王子を愛馬に乗せ、その手綱を取ってわき目もふらずに走り出してしまいました。そしてそのまま大変な勢いを保ったまま走り続け、あっという間に森を抜け出て王宮へと向かいました。

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