第一章 その1

Category童話「ミシオン王子とハトになったヴォロンテーヌ」
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 昔、まだ天の王国と地上とが近しくあった頃、ある国にミシオンという名の、ひとりの美しい王子がありました。この人は、元は天の王国で人間を導く天使たちのうちの一人でしたが、地上で人間たちが楽しく歌ったり踊ったりして遊んでいるのを見、また人間たちがさまざまな艱難辛苦によって珠のように磨かれていくのを見るうちに、人間の生活に憧れるようになりました。それに、人間として地上に降りた方が、もっと人々の助けになると考えたのです。というのも、この頃では天使が囁いて導こうとする声に耳を傾ける人が少なくなっていたからでした。
 そこで天の王国の王に、人間として生まれ、地上で修行をしたいと申し出ると、王は「許す」とおっしゃったので、喜び勇んで地上に降り、ちょうど後継ぎの男の子を望んで祈りを捧げている最中だったその国の王妃のお腹の中に飛び込みました。
 さて、王子は誕生すると同時に、全く他の人々と同じように、自分がどこから何の目的で来たのかをすっかり忘れてしまいました。そして、初めて経験することにすっかり心を奪われ、夢中になりました。体を持って生まれ、その体に感じることはすべてが強烈に快く、まして身分高く生まれついたので、周りには楽しいことばかりがあふれていたからです。
 しかし、おぼつかない足取りで歩き出すくらいになると、痛みというものも体験するようになりました。転んだり、熱いものを触ったりすると、途端に体には不愉快な感覚が嵐のように走るので、それを避けることを覚えました。それで王子はあまり怪我というものをしなくて済みました。
 けれど、だんだん成長するに従って、痛みは複雑なものになっていきました。ミシオン王子が特に辛く思ったのは、痛みの中でも心に受ける痛みでした。特に教育係が王子の勉強不足について注意をしたり、間違った行いをしようとするのを諌めたりすると、王子はなんとも不愉快な心持ちになり、これを嫌いました。
 もちろん、最初の頃は王子も素直に──なにぶん、元は天使でしたから──教育係の言うことを聞いていたのですが、だんだん大きくなってくると、教育係の言うことはもう既に知っていると思うようなことばかりで──なにぶん、元は天使でしたから──自分よりも知恵の乏しい者に教えを乞うような必要があるのだろうかと考えるようになりました。それで王子は、あまり熱心に教育係の言うことを聞いたり、勉強をしたりと言ったことをしなくなりました。そうすると、教育係の中でほんとうにミシオン王子のためを思って、熱心に職務に尽くそうとしていた者たちは、がっかりして去って行ってしまいました。そして、王子のことよりも自分のことを一番に考えている者たちだけが残りました。
 王子はまた、乳兄弟たちとかけっこをしたり、狩りや戦の真似事をしたりするとき、彼らに負けることも好みませんでした。ミシオン王子の父であるパラン国王と母であるジェニトリーチェ王妃も、王子が負けるようなことがあってはならないと信じていたので、遊びであっても王子を打ち負かす者がいれば、ただちにその者を罰しました。それで王子はどんなときにも負けることはなくなりましたが、乳兄弟や貴族の子弟たちが、陰で王子を甘ったれた軟弱者だと謗っていることを知ると、大いに気分を害しました。
 パラン国王とジェニトリーチェ王妃も、王子を謗ることは国への反逆だと見なし、王子の陰口を叩いたり、からかったりするような者がいれば、ただちにその者を罰しました。それで王子は、不愉快な気分になりそうなことを、出来うる限り避けて過ごすことができました。
 ただでさえ身分高く生まれたうえ、国王である父も王妃である母も、王子にとても甘かったので、嫌なことや自尊心を傷つけるようなことを避けて生きるのは簡単だったのでした。


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