その4

Category童話「ミシオン王子とハトになったヴォロンテーヌ」
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 翌朝早く、小鳥たちの声で目を覚ますと、王子の馬がいませんでした。王子は仕方なく歩いて森を彷徨いました。空腹でしたが、やはり恐れは感じていませんでした。
 すると、いくらも歩かないうちに、王子は森を抜け、美しい田園の広がる農村にたどり着きました。何人かの農夫たちが、穏やかな笑顔を浮かべて歩いているのが見えました。王子が歩いていくと、ひとりの年老いた農夫に声を掛けられました。
「これは王子さまではありませんかな? こんなところで何をなさっているのですじゃ?」
 王子が事の経緯を述べると、農夫は気の毒がって、自分の小屋に来て休むように勧めました。農夫の小屋は小さいものでしたが、よく手入れがされて、暖かく、居心地の良いところでした。
 農夫が絞りたてのヤギの乳とパンを出してくれたので、それを食べました。

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 その食事は王子の日常から考えれば、信じられないほど質素なものでしたが、今まで食べたどんな物より美味しく感じられ、王子は驚きました。一口飲んだり食べたりするごとに、体の奥から新しい力が湧き上がってくるようで、ミシオン王子はしみじみとした感動と共に、農夫が出してくれた食事を平らげました。
 王子が小屋の中で休んでいる間、農夫は外に出て、曲がった腰をさらに曲げたり、あるいは伸ばしたりして仕事をしていました。顔には深く皺が刻まれていましたが、平和に満ちた表情で羊や鶏の世話などをしているのを見た王子は、小屋の外に出て行って、農夫に丁寧な口調で話しかけました。
「おじいさん、教えてください。わたしにはもう、何もかもがわからなくなっているのです」
 王子がとても礼儀正しく話しかけてきたのに驚いて、農夫は仕事の手を休めて言いました。
「殿下ほど恵まれたお生まれの方が、どうして農夫なんぞに教えを乞われるのか不思議なことじゃが、お役に立てるならば、なんなりともお答えしましょう」
  王子はそれまで、自分の考えや思ったことなどを言葉にして話すと言うことをしてこなかったので、慎重に自分のうちを探るようにしながら話し出しました。


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